農業に役立つ土壌学4 線虫
目次
- 線虫とは
- 植物寄生性線虫
- 自活性線虫
- 3-1.微生物の機能の向上

- 3-2.植物寄生性線虫の抑止
- 3-3.土壌生態系の中の線虫
- 土壌生態系の中の線虫
1. 線虫とは
農業において「線虫」と聞いてまず思い浮かぶのはネコブセンチュウでしょうか。シストセンチュウでしょうか。いずれにしても、作物を加害する「植物寄生性線虫」だと思います。しかし、土壌中に棲む線虫のうち、植物を加害する線虫の方が実は少ないのです。このような、植物ではなく土壌の微生物や他の生物を餌としている線虫は「自活性線虫」と呼ばれています。
線虫はとても多様な生物で、3万種も報告されています。15%が動物寄生性、25%が自活性、50%が海洋性、残りの10%が植物寄生性と言われており、海洋性を除く種が土壌に生息しています(岡田 2018)。生息範囲はとても広く、海や川などに棲む水生から土壌や樹上に棲む陸生、さらに砂漠 (Treonis et al., 2022)や氷河 (Shain et al., 2021)でも発見されています。日常のより身近なところでは、魚に寄生するアニサキスや、犬に寄生するフィラリアも線虫の一種です。
線虫は乾燥条件下では活動できないため、土壌中では土壌粒子の表面の水中に生息していると考えられています。一方で、乾燥すると「dauer larava」という乾燥に強い状態となる線虫もいて、このような線虫は再び湿潤環境に戻ると活動を再開します。砂漠に見られる線虫も、霧などによる水の供給があった時にだけ活動をしていることが分かっています(Treonis et al., 2022)。
2. 植物寄生性線虫
植物寄生性線虫による被害は概算で10~14%の減収がもたらされていると推定されています (水久保, 2018)。日本における主要な植物寄生性線虫は、ネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウです。ネコブセンチュウとシストセンチュウは、一度根の中に入ると維管束付近でとどまり、養分を吸収し続ける「定着性内部寄生性線虫」と呼ばれる一方で、ネグサレセンチュウは根の中を移動し続け、必要な時には一度根から出てまた根へ侵入する「移動性内部寄生性線虫」と呼ばれます。植物寄生性線虫は、頭部に有する口針で植物の根の細胞内に侵入し、植物細胞の内容物を吸収したり、巨大細胞や多核質細胞などの特殊な栄養組織を形成させることにより、植物に生育不良や減収を引き起こします。

2-1. 現在の防除法
現在行われている基本的な防除法は、主に①化学農薬、②抵抗性品種、③輪作です(Cazzaniga et al., 2025)。
線虫対策に用いられる化学農薬は燻蒸剤と非燻蒸剤(粒剤)に分かれており、前者には1,3-ジクロロプロペン(D-D)、加水分解によってメチルイソチオシアネートを発生するダゾメットやキルパーなどが含まれ、土壌中の生物を非選択的に殺すことが特徴です。後者は植物寄生性線虫を選択的に殺す農薬で、ネマトリンエース(ホスチアゼート)やビーラム(フルオピラム)などがあります。現在燻蒸剤が広く利用されていますが、その健康への影響からヨーロッパ諸国では使用を禁止している国もあります。また、日本政府が定めた「みどりの食料システム」では、2050年までに農薬の使用量をリスク換算で半減する目標が掲げられており、今後は代わりとなる防除法の検討が必要です。
表1. 主な燻蒸剤および非燻蒸剤
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農薬の種類名 |
農薬の名称 |
有効成分 |
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燻蒸剤 |
D-D剤 |
D-D テロン |
D-D ※1,3-ジクロロプロペン |
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ダゾメット粒剤 |
バスアミド微粉粒剤 ガスタード微粉粒剤 |
ダゾメット ※加水分解によって生成するメチルイソチオシアネートが活性本体 |
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カーバムナトリウム塩液剤 |
キルパー |
カーバムナトリウム塩 ※加水分解によって生成するメチルイソチオシアネートが活性本体 |
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非燻蒸剤(粒剤) |
フルオピラム粒剤 |
ビーラム粒剤 ネマクリーン粒剤 |
フルオピラム |
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ホスチアゼート粒剤 |
ネマトリン粒剤 ネマトリンエース粒剤 |
ホスチアゼート |
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カズサホスマイクロカプセル剤 |
ラグビーMC粒剤 |
カズサホス |
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オキサミル粒剤 |
バイデートL粒剤 バイデートMK |
オキサミル |
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イミシアホス粒剤 |
ネマキック粒剤 |
イミシアホス |
抵抗性品種とは抵抗性遺伝子を有する品種のことで、このような作物は植物寄生性線虫の感染を抑制し被害を軽減します。サツマイモネコブセンチュウに対してはナス台木やトウガラシ台木、ダイズシストセンチュウおよびジャガイモシストセンチュウに対しても抵抗性品種のダイズとジャガイモが市販されています。一方で、サツマイモネコブセンチュウの抵抗性品種であるトマトに対して、その抵抗性を打破する個体群が広まっているなど、抵抗性品種には抵抗性が打破されるリスクがあります。加えて、抵抗性遺伝子はすべての作物に導入できるわけではなく、ダイズの早生品種であるエダマメはダイズシストセンチュウの被害を受けますが、抵抗性品種はまだありません(奈良部 2020)。
輪作は、宿主である作物と宿主ではない作物を交互に栽培する方法です。常に宿主が植わっていることで、土壌中では特定の病原菌や植物寄生性線虫が増えやすくなります。そのため、間に宿主ではない作物を挟むことで、病源菌や植物寄生性線虫の密度を下げられることがわかっています。しかし、ネコブセンチュウは宿主範囲が非常に広くほぼすべての作物に感染することから、輪作による防除は難しいとされています。
2-2. これからの防除法
IPM(Integrated Pest Management)「総合的病害虫・雑草管理」をご存じでしょうか。これは、農薬の使用増加に伴って、害虫の抵抗性獲得や人や環境への負荷といったものが明るみに出たことで生まれた概念です。FAOによる定義では、「IPMとは利用可能なすべての防除技術を慎重に検討し、適切に防除手段を組み合わせることで、病害虫の増殖を抑制する管理手法である。防除手段には生物的、化学的、物理的、および耕種的防除があり、健康な作物の栽培と最低限の農薬使用によって、人や環境へのリスクを低減し、持続的に害虫を管理する」とされています。つまり、化学農薬から別の防除手段に完全に切り替えるのではなく、まず病気の出にくい土づくりを行い、そのうえで化学農薬だけでなく様々な手段を組み合わせて病気を抑えていくという管理方法です。
IPMに含まれる4つの防除の代表例および、植物寄生性線虫の防除における主な防除手段は以下のようなものです。

線虫防除における耕種的防除には、抵抗性品種や接木に加えて緑肥や有機物の施用があります。緑肥の中には、殺線虫物質を生成するもの(マリーゴールドやサンヘンプ(クロタラリア)など)や、分解中に殺線虫物質が生成されるもの(アブラナ科やイネ科など)など、植物寄生性線虫の抑止力を有するものがいくつも知られています(表2)。また、緑肥や堆肥などの有機物を土壌に投入することによって、土壌中の拮抗菌が増え、植物寄生性線虫の抑止力が向上することも報告されています(Oka, 2010)。また、バイオスティミュラントのような新たな資材も増えてきています。
表2.植物寄生性線虫の抑止に効果のある主な緑肥

物理的防除では、太陽熱消毒が挙げられます。夏場に地表をフィルムで被覆し、太陽熱を利用して地温を高め、熱により植物寄生性線虫を殺す方法です。
生物的防除は拮抗菌の活用です。微生物の中には、線虫に寄生したり、線虫を殺すような物質を放出することで、植物寄生性線虫の個体数を減らすものがいます。最も有名なのはPasteuriaという細菌で、植物寄生性線虫に寄生し、線虫が植物の根内に侵入した後で線虫体内に寄生を始めます。この細菌は、「パスツリア水和剤」としても販売されています。他にも土壌から単離した拮抗菌を室内で大量培養し、土壌に接種することで植物寄生性線虫を抑止する試みが行われていますが、土壌にもともと生息している微生物との競合や異なる土壌環境への適応の難しさによって、その効果が不安定であることが指摘されてきました。そのため、有機物の投入や緑肥栽培などによって、土壌にもともと棲んでいる拮抗菌を増やす試みが現在検討され始めています。
緑肥は直接的な植物寄生性線虫密度の低減に加えて、拮抗菌を増やすことも期待されていますが、日本においてはどの程度普及しているのでしょうか。交付金の支払い業績および種子の輸入量から推定した緑肥の利用率を見てみると、9割を超える生産者は緑肥を利用していないことがわかります。一方でアメリカやイギリスを見るとどちらも半数以上の生産者が緑肥を利用しており、日本ではまだ緑肥の普及率が低いと言えます(図3)。

3. 自活性線虫
自活性線虫はその餌の種類によって細菌食性、糸状菌食性、そして原生動物や線虫などの無脊椎動物を餌とする捕食性、さらに微生物や無脊椎動物など複数の生物を餌とする雑食性の4つに大きく分けられます(Yeates et al., 1993)。特に細菌食性線虫は細菌の捕食を介して物質循環に関わっており、捕食性・雑食性線虫は植物寄生性線虫を捕食することによる線虫害の抑止が期待されています。さらに、どの食性のどんな線虫がいるか、ということから土壌の状態を予測する線虫指標も考案されています。

3-1. 微生物の機能の向上
線虫は微生物を体表にのせたり、一度飲み込んだのちに未消化のまま排出することで、微生物を運ぶことが知られています。これによって微生物単独ではたどり着けない餌も利用できるようになり、有機物の無機化が促進され、植物はより多くの養分を有機物から利用できるようになります。植物に有用な窒素固定菌などを根圏に運んだり、拮抗菌が植物寄生性線虫と遭遇する確率を高めたりすることも示唆されています(Topalović and Geisen, 2023)。加えて、線虫が細菌を餌とするとき、細菌の体を構成するすべての栄養素を利用できるわけではありません。線虫の体は細菌の体と比べて炭素よりも窒素が少なくできているため、線虫の体は細菌の体と比べて炭素よりも窒素が少なくできているため、細菌を食べると窒素が余ってしまい、その分を無機態の窒素として放出します。そのため、線虫がいることで多くの無機態窒素が土壌中に放出されるようになるのです。このことはリンについても知られています。
微生物の運搬に加えて、線虫は細菌群集を変えることが知られています。線虫は種類によって口の形であったり餌の好みが異なるため、線虫の種類ごとに食べる餌が違い、細菌群集に与える影響も異なります(Brondani et al., 2022)。さらに、拮抗菌と呼ばれる拮抗物質を生成する菌は、その拮抗物質によって線虫から食べられにくく、線虫がいることによって増えやすくなります。これによって、線虫がいる条件下で青枯菌の拮抗菌が増え、抑止力が向上することも報告されています(Xu et al., 2024)。
3-2. 植物寄生性線虫の抑制
捕食性・雑食性線虫は他の線虫を餌としています。これらの線虫は大きな口や針を持っており、噛みついたり針を刺すことで他の線虫を捕食します(図4)。こういった線虫は植物寄生線虫を捕食して数を減らすことが知られており、実験室における60日間のトマト栽培試験では、捕食性線虫の接種によってネコブセンチュウ密度が98%低下しました(Khan and Kim, 2005)。拮抗菌のように室内で増やした捕食性・雑食性線虫を圃場に投入することも検討されていますが、これに加えて、もともと圃場にいるこれらの線虫の数を増やす試みも行われています。有機物の施用によって細菌食性・糸状菌食性線虫が増え、それによって捕食性・雑食性線虫が増えることで、植物寄生性線虫の抑止力が高まるのではないかと期待されています。

3-3. 生物指標としての活用
作物生産に欠かせない土壌機能は、ある一つの生物というより土壌生態系によって支えられています。ただ、土壌生態系は耕起や有機物施用、農薬散布などによって影響を受けるため、土壌生態系の状態を適切に評価し、より豊かにすることが重要です。土壌生態系の状態を評価する手段の一つとして、線虫群集をもとにした線虫指標が考案されています。他の土壌生物と比べ、線虫は幅広く普遍的に存在し、かつ食物網において複数の栄養段階に属することから、土壌生態系の変化を測るのに適していると考えられています(Du Preez et al., 2022)。
1980年代までは、主に線虫の個体数が指標として活用されていましたが、1990年代以降は様々な線虫指標が提唱されてきました(表3)。これらの指標は、各線虫のグループの生態的な特徴(卵をたくさん産むなど)をもとに重みづけを行い、個体数をかけることで算出します。ただ、線虫の体の大きさは様々であるため、さらに後には、線虫の個体数ではなくそのバイオマスに注目をして計算を行うMFs(Metabolic Footprints)も提唱されました(Ferris, 2010)。これらの指標は、耕起や有機物の投入による土壌生態系の変動を評価できることが示されており、今後は線虫指標を土壌機能と結びつけていくことが期待されています(Du Preez et al., 2022)。

4. 土壌生態系の中の線虫
農地における植物寄生性線虫は悪役ですが、実は生態系という大きな視点で見ると植物寄生性線虫の役割は違って見えます。ある研究では、植物寄生性線虫などの植食者の存在が、特定の植物種が増えることを阻止することで森林の遷移を推進し、さらに植物の多様性も高める役割が報告されています(De Deyn et al., 2003)。
農地という特殊な環境では、植物寄生性線虫のような特定の線虫が劇的に増えてしまい問題となります。ただ、そんな害虫も場所が変わればただの生態系の一員であるということは、忘れがちな、面白い事実です。連載第2回から第4回にかけてご紹介したように、土壌には多様な生物が生息しています。そして「線虫」とひとくくりにした中にも、多様な線虫が含まれています。害虫とされる生物も含めて、土壌生態系すべてに興味を持っていただけるような記事となっていれば幸いです。

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連載第2回 農業に役立つ土壌学2 土壌生物
連載第3回 農業に役立つ土壌学3 土壌微生物
引用および参考文献
- Brondani, M., Plassard, C., Ramstein, E., Cousson, A., Hedde, M., Bernard, L., Trap, J., 2022. Morpho-anatomical traits explain the effects of bacterial-feeding nematodes on soil bacterial community composition and plant growth and nutrition. Geoderma 425, 116068.
- Cazzaniga, S.G., Belliard, P., van Steenbrugge, J., van den Elsen, S., Lombaers, C., Visser, J., Molendijk, L., Macia-Vicente, J.G., Postma, J., Mommer, L., Helder, J., 2025. On the diversity of nematode antagonists in an agricultural soil, and their steerability by root-knot nematode density and cover crops. Soil Biology & Biochemistry 202, 109693
- De Deyn, G.B., Raaijmakers, C.E., Zoomer, H.R., Berg, M.P., de Ruiter, P.C., Verhoef, H.A., Bezemer, T.M., van der Putten, W.H., 2003. Soil invertebrate fauna enhances grassland succession and diversity. Nature 422, 711–713
- Du Preez, G., Daneel, M., De Goede, R., Du Toit, M.J., Ferris, H., Fourie, H., Geisen, S., Kakouli-Duarte, T., Korthals, G., Sánchez-Moreno, S., Schmidt, J.H., 2022. Nematode-based indices in soil ecology: Application, utility, and future directions. Soil Biology & Biochemistry 169, 108640.
- Ferris, H., 2010. Form and function: Metabolic footprints of nematodes in the soil food web. European Journal of Soil Biology 46, 97–104.
- カネコ種苗株式会社. 商品紹介 飼料作物・緑肥作物. https://kanekoseeds-p.jp/products/feedgreen-manure-crop/
- Khan, Z., Kim, Y.H., 2005. The predatory nematode, Mononchoides fortidens (Nematoda: Diplogasterida), suppresses the root-knot nematode, Meloidogyne arenaria, in potted field soil. Biological Control: Theory and Applications in Pest Management 35, 78–82
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- 農研機構. 緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-. https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/134374.htm
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- 岡田浩明2018. 3章 線虫. 金子信博編土壌生態学, p.31-44. 朝倉書店. 東京
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- Xu, X., Jiang, R., Wang, X., Liu, S., Dong, M., Mao, H., Li, X., Ni, Z., Lv, N., Deng, X., Xiong, W., Tao, C., Li, R., Shen, Q., Geisen, S., 2024. Protorhabditis nematodes and pathogen-antagonistic bacteria interactively promote plant health. Microbiome 12, 221.
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