農業に役立つ土壌学3 土壌微生物
目次
1.微生物の棲み処
前回もご紹介しましたが、微生物は①細菌、②アーキア、③糸状菌、④原生生物の4種類から構成されています。

“微生物”と聞くとみんな同じように感じられますが、大きさや個体数、その特徴は様々です(表1)。第1回では、小さな土粒子同士がくっつくことでミクロ団粒(< 250 µm)を形成し、さらにこれらがくっつきあってマクロ団粒(> 250 µm)というさらに大きな団粒が形成されているというお話をしました。団粒内および団粒間には様々な大きさの隙間(孔隙)があり、微生物は体の大きさによってそれぞれ異なる空間に生息しています。微生物の中で最も小さい細菌とアーキアはミクロ団粒の中の小さな孔隙に入っていくことができますが、他の糸状菌や原生生物は体が大きすぎて入ることができません。また、同じ細菌同士であっても、生息している孔隙の大きさは種類によって異なります。
クロロホルムを用いて実験的に土壌消毒のような燻蒸処理を短時間だけ行うと、細菌の種類によって死滅しやすさが異なりました(図1)(Toyota et al., 1996)。大きな孔隙のほうが消毒の効果が届きやすいと考えられることから、短時間の消毒で全滅したAgrobacterium radiobacter 13532株やPimelobacter sp. A3株は比較的大きな孔隙を好んで増殖すると推定されます。一方、Pseudomonas fluorescens 12180株やPseudomonas stutzeri A6株は25分の消毒でも半数近くが生き残ったので、これらの細菌は小さな孔隙を好んで生育すると推定されました。つまり、各細菌が好んで増殖する孔隙の大きさが異なることが示されています。このように、微生物の生育場所はその微生物の生活様式を決める大きな特徴の一つで、微生物間の相互作用にも影響します。青枯病菌(Rs YU1)はナス科作物を中心に被害をもたらす植物病原細菌ですが、この病原菌は短時間消毒では比較的死滅しやすく、大きな孔隙を好むグループに属します。殺菌した土壌に青枯病菌と12180株やA6株と同時に接種しても、青枯病菌の増殖はまったく抑制されなかったのに対し、13532株やA3株と同時に接種すると、青枯病菌の増殖は有意に減少しました。このことは、青枯病菌は類似した生育場所を好む13532株やA3株とは競合するものの、Pf 12180株やPs A6株とは競合しないことを意味します。さらに、殺菌土壌にあらかじめ様々な微生物を1種類だけ接種して十分に生育させた後、青枯病菌を接種するという実験を行いました。Ar 13532株やPi sp. A3株を先に生育させておくと、後から接種した青枯病菌の増殖が顕著に抑制されたのに対して、生育場所が異なるPf 12180株やPs A6株を先に接種した場合では、青枯病菌の増殖はまったく影響を受けませんでした。このことは、病原菌と生育場所が異なる拮抗菌では、病原菌に対する抑制効果が期待できないことを意味しています。フザリウム病や軟腐病などで、病原菌と同じ種に属する非病原性の菌株を用いて生物防除を行う例が知られていますが、これは病原菌と非病原性菌は同一の生育場所を求めるため、両者が競合しやすいことに起因します。

微生物の生育場所として特に重要なのは植物の根の周りです。周辺の土に比べて100倍も多くの微生物が存在することが知られています(木村 1988)。これは、植物の根から有機酸やアミノ酸などの有機物が分泌されたり、古くなった根の表面がはがれるなどして、微生物の餌である有機物の供給が多いためです。このように根の周辺で根の影響を強く受けている領域にある土のことを「根圏」と呼び、根圏に形成される微生物群集を「根圏微生物群集」と呼びます。植物は光合成産物の5~30%を根から分泌していて、植物の生育段階や遺伝的な種類、環境ストレスなど様々な影響を受けて根の滲出物の組成が変化することが知られています。とくに、病原菌の侵入によって根の浸出物が変化し、それによって病気の抑止に貢献するような微生物を根圏に集めてくる「cry for help」という現象もわかってきました。コムギ立枯病などで、病気が激発後、やがて発病率が低下する現象が知られていますが、こうした「発病抑止土壌」は上述のメカニズムによって形成されていると考えられています(Rolfe et al., 2019)。
根の内部にも微生物が生息していることが分かっています。これらは「内生菌(エンドファイト)」と呼ばれ、植物ごとに特徴的な群集が形成されています。このような微生物は植物から光合成産物の一部をもらい、その代わりに植物が獲得しにくいような養分を植物に提供します。このように協力し合いながら生存している微生物には、菌根菌や根粒菌などが知られます。
2.微生物と土壌機能
土壌には作物生産を支える様々な機能があり、微生物はその生命活動によって、多様な土壌機能を支えています。
① 有機物の利用(分解)
有機物とは「生物によって合成されるもの」と定義されています。ただ例外もあり、その詳細な定義ははっきりとはされていないようです。一般に、農地においてよく見られる有機物は、植物残渣や堆肥などです。化学肥料などは炭素を含まないので有機物ではないですし、二酸化炭素は炭素を含みますが有機物には入りません。
土壌の有機物の多くは、いくつもの小さな構成単位(分子)が連なってできた大きな分子です(図2)。たとえば農地での代表的な有機物である植物残渣には、セルロースと呼ばれる物質が多く含まれています。セルロースは、グルコース(ブドウ糖)という「単糖」がいくつもつながった構造をしています。単糖とはもっとも基本的な糖の形のことで、微生物はこのような単糖を細胞内に体に取り込んで分解、エネルギーを得ます。一方、セルロースは大きすぎて微生物はそのまま取り込むことができません。そこで微生物は「菌体外酵素」という分解酵素を出して、セルロースをグルコースに分解します。こうして得られたグルコースを微生物が取り込むことで、エネルギーを得たり、体を構成するための物質を作ったりするのです。しかし、取り込んだ物質をすべて活用できるわけではありません。余った炭素はCO2として、窒素はNH4+して、リンはHPO42-・H2PO4-として放出します。そして、このような無機物が植物に利用されます。こうして微生物が大きな有機物を小さな分子まで壊し、体内に取り込み、不要な分を無機物として放出する一連の流れを「有機物の無機化」と言います(養分循環機能)。
土壌に投入された有機物の中には、微生物に分解されにくいものもあります。リグニンは、セルロースと同様に植物残渣に多く含まれる物質ですが、分解されにくいことが知られています。このような難分解性の有機物は、小さな最小単位まで分解されるのではなく、ある程度分解されたところで安定した物質となって土壌に留まります。安定した状態の有機物は「腐植」と呼ばれ、分解されにくい有機物が土壌に蓄積していくことによって、土壌に炭素が蓄積します。こうした炭素の貯蔵庫としての役割が、気候変動の緩和につながるのではないかと期待されています(炭素・気候調整機能)。

② 無機物の利用
私たちが普段行っている「呼吸」は、有機物と酸素を用いて生命活動に必要なエネルギーを獲得するためのもので、微生物も同様に呼吸をしています。ただ、その方法は様々です。人間と同じように有機物と酸素を使うものもいれば(好気呼吸と呼びます)、酸素の代わりにNO3-やSO42-などの別の物質を利用するものもいます。酸素は使うけれど有機物を使わずに、NH4+やNO2-などを利用するものもいます(嫌気呼吸と呼ばれます)。このように様々な方法でエネルギーを獲得する過程で、土壌中における重要な物質変化が起きています。
酸素がない環境では嫌気呼吸が行われ、有機物を分解しエネルギーを獲得するためにNO3-が使われ、土壌溶液中に溶けているNO3-が気体であるNO、N2OそしてN2に変化する「脱窒」という現象が起こります(図3)。この脱窒反応が最後まで進むか否かによって、温室効果ガスであるN2Oの発生量が変化します。例えば、畑では土壌中の孔隙が大気とつながっているため、反応途中のN2Oが大気に抜けやすくN2Oが発生しやすい一方で、水田ではN2になるまで脱窒が進みやすく、N2O発生は少ないと言われています。また、亜酸化窒素還元酵素を持たない糸状菌による脱窒では最終産物がすべてN2Oになるため、糸状菌の多い土壌ではN2O発生が多くなることも知られています。
有機物をエネルギー源として用いない独立栄養微生物の中には、NH4+をNO2-に、そしてNO2-をNO3-に変化させることでエネルギーを獲得するものがいます。この一連の反応を「硝酸化成(硝化)」と言い、これによって有機物が分解されて生成したNH4+や、尿素や硫安などのアンモニア系の窒素肥料に含まれるNH4+がNO3-に変換されます。このように、土壌中の有機物が無機態まで変換されることによって、植物は土壌有機物を養分源として利用できるようになります。微生物による有機物の無機化を経て供給される窒素は「可給態窒素」と呼ばれ、土壌が今後植物に対して供給可能な窒素量を指し、土壌の肥沃度の指標として使われます。植物の中には「好硝酸性植物」と「好アンモニア性植物」があり、畑作物では前者が多いことが知られます。そのため、農地では硝化反応は重要な役割を担っています(養分循環機能)。

③ 植物との共生
とくに植物と密接な関係を持つのは根圏微生物です。①植物ホルモンの分泌、②病害抵抗性の促進、③養分吸収、の3つの役割を担っています(南澤ほか 2021)(図4)。①の例では、微生物がインドール酢酸という植物成長促進ホルモンを生成することによって植物生育を促進することが知られ、このように植物の生育を促す微生物を細菌であればPGPB(Plant growth-promoting bacteria)もしくはPGPR(Plant growth-promoting rhizobacteria)、糸状菌であればPGPF(Plant growth-promoting fungi)と呼びます。また、一部の微生物の細胞壁成分や鞭毛を植物が感知すると、植物の病気に対する抵抗性が上昇することがすることが知られています(②)(病害防除機能)。そして、有用微生物として有名な窒素固定菌や菌根菌も根圏微生物の一員です。特に根粒菌や菌根菌は植物から光合成産物をもらう代わりに、根粒菌なら固定した窒素を、菌根菌ならリンなどの養分を植物に渡し、植物の根が届かない場所にある養分も獲得できるように手助けしています(養分循環機能)。

④ 他生物への攻撃・寄生
土壌の微生物には、他の生物を利用して養分を獲得したり、また他の生物を攻撃する手段を有するものが知られています(病害防除機能)。たとえば植物寄生性線虫を例にすると、幼虫に寄生する微生物や、卵や卵のう、シストなどに寄生する微生物が知られており、とくに幼虫に寄生するPasteuria penetransという細菌は、「パスツーリア ペネトランス水和剤」(農林水産省、農薬登録情報提供システム)として販売されています。また、微生物の中には、他の生物にとって毒となる物質を分泌することによって、他の生物を攻撃するものも知られています。こういった微生物は、培地上で他の微生物の発育を抑える様子が確認でき(図5)、こうした発見を基に、私たちが病気になった時に服用する抗生物質が作られました。
以上のように、微生物には作物病害を抑える機能があり、病害防除としての活用が期待されています。しかしながら、生物農薬は土性や気候、作物の種類、土着の生物に影響を受けることから室内で得られた効果が圃場では得られないことが多く(Raaijmakers and Mazzola, 2016)、安定して効果を得にくく、さらに効果がでるまでに時間がかかることなどが課題となっています。そのため、投入する有機物や農法の工夫によって、病害に強い土づくりができないかという研究が進められています。

⑤ 団粒の形成
ほとんどの微生物は体のまわりに粘着物質を分泌していると言われます。この粘着物質によって、微生物の周りには土の粒子がくっついています。ちなみに、納豆のネバネバは納豆菌(Bacillus subtilis)が生産するγ‐ポリグルタミン酸によるものです。こうした粘着物質によって、まず小さな細菌を中心として、土粒子の集合体ができあがります。この集合体は細菌が死んだあとも残るため、中心にいた細菌由来の細胞壁成分は、あまり分解されずに土に残ります。そして、より大きな糸状菌の菌糸や細菌の周りの粘着物質によって、この小さな粒子の集合体同士がくっつき、さらに大きな集合体を作ります。このようにして、安定したミクロ団粒が形成されます。この団粒は壊れにくいため、有機物が分解されずに残りやすく、これによって土壌に炭素が蓄積していきます(炭素・気候調整機能)。このミクロ団粒は、糸状菌の菌糸や植物の細根によって結び付けられ、マクロ団粒になります。小さな団粒がいくつも組み合わさってさらに大きな団粒をつくり、様々な大きさの孔隙ができることによって、保水性や排水性が良い土壌が作られます(水分調節機能)。団粒の発達度合いの評価方法の1つに耐水性団粒があります。風乾した土壌を水に浸漬した後、様々なサイズの篩を通し、各サイズの篩いの上に残った団粒の重量を測定します。各サイズの団粒の重量に団粒の大きさを乗じて平均団粒直径を求めると、土壌間による団粒の発達度合いの程度を比較しやすくなります。褐色低地土の例ですが、堆肥を連用していない土壌では0.2mmだった平均団粒直径が、堆肥施用量に応じて増加することが分かります(図6、Fujino et al. 2008)。堆肥施用により微生物の生育が促進され、その結果、団粒化が進んだと考えられます。また、微生物が死んだ後も粘着物質が残ることを先に述べましたが、黒ボク土の同一圃場内で消毒後の場所と消毒していない場所から土壌を採取して団粒分析したところ、消毒後の土壌では平均団粒直径が小さくなりました(図7)。このことは団粒の形成には生きた微生物の存在が重要であることを示唆しています。

関連記事
連載第1回 農業に役立つ土壌学1 土壌学とは
連載第2回 農業に役立つ土壌学2 土壌生物
引用および参考文献
- Brady, N. C. and Weil, R.R., 2016. The Nature and Properties of of Soils (15th edition). Pearson, Columbus
- Fujino C, Wada S, Konoike T, Toyota K, Suga Y, Ikeda J., 2008. Effect of different organic amendments on resistance and resilience of organic matter decomposing ability of soil and role of aggregated soil structure. Soil Science and Plant Nutrition 54, 534-542
- 木村眞人. 1988. 講座 微生物段階の土づくり2 根圏微生物を生かす. 農文協
- 南澤ほか. 2021. エッセンシャル 土壌微生物学. 講談社
- Raaijmakers, J.M., Mazzola, M., 2016. Soil immune responses. Science 352, 1392–1393.
- Rolfe, S.A., Griffiths, J., Ton, J., 2019. Crying out for help with root exudates: adaptive mechanisms by which stressed plants assemble health-promoting soil microbiomes. Current Opinion in Microbiology 49, 73–82.
- 染谷孝. 2020. 人に話したくなる土壌微生物の世界. 築地書館
- Toyota K., Kimura .M., 1996. Growth of the bacterial wilt pathogen Pseudomonas solanacearum intoduced into soil colonized by individual soil bacteria. Soil Biology & Biochemistry 28, 1489-1494.
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